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「BL小説」
梅小話(SS)

君のわかる事とわからない事(BL小説)

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「あった。よかった」

 まだこの時間になっても暗くないから怖くはないけれど、やっぱり人のいない学校って奇妙だ。自分の足音がこんなに響くなんて知らなかった。
 誰もいない教室、終業式の日に渡されたてんこ盛りの宿題プリント。

“小野田(おのだ)落としたぞ”

 柴崎(しばさき)君に拾ってもらえて浮かれすぎて、机の中に置いて帰ってしまった。そのプリントの左端を持っていた、なんて思い出して、同じ場所をわざと持ってみる。温もりが残っているわけでもないのに、そんな事をして変態みたいだけど、この様子を見てる人は誰もいないから。そして誰もいないのを良い事に、そっと柴崎君の机を撫でてしまった。これじゃ本物の変態だ。緊張しながら、こんなチャンスは滅多にないんだからって、数回指で撫でてしまった。夏休み明けの席替えで近くになれますように、なんて本人に知られたら、さぞかし気味悪いだろう願いを胸の中でだけ唱えた。
 夏休みはどこか行くのかな。って行かないわけないか。クラスにも、というか廊下を歩けば皆が声を掛けるサッカー部のエースが夏休みどこも行かないなんてあるわけがない。明日の花火大会だってきっと大勢で行くんだろう。そんなような事を今日話していたし。
 いいなぁ、一緒に花火大会なんて……夢のまた夢だ。

「! ヤバ……」

 ストーカーみたいな事をしている場合じゃない。もう夕方というより夜になりかけている空を見て、慌てて教室を後にした。
 終業式の日、こんな時間にまでやっている部活はないらしく、校舎だけじゃなく校庭も静まり返っている。明日からは運動部は大会が始まるらしい。サッカー部は明日も明後日も部活があるから、花火大会にどうやって行こうか話し合っていた。海にキャンプ、合宿だってきっと楽しいんだろうな。勿論花火大会だって……共通点の見つからない僕が柴崎君と夏の思い出を一緒に作ることは出来ないけれど。
運動部のマネージャーは何で女子なんだろう。男子のほうが力だってあるから、色々運べるのに。なれるものならなってみたかった。
 静かな校庭を足早に通り過ぎようとした時だった。体育倉庫からものすごい音が聞こえて、足が咄嗟に止まってしまう。
 部活はどこもやっていない。それなのに体育倉庫に誰がいるっていうんだ。まさか、強盗? サッカーボールとかを大量に盗もうとしている、とか?
 先生を呼びに職員室へ行こうか、このまま帰ってしまおうか迷っている時だった。

「ぉーぃ……」

 微かに誰かが呼んでいる。しかもその声が柴崎君に似ていて、僕は思わず近寄ってしまう。

「おーい、小野田、まだいるー?」

 やっぱり柴崎君の声だった。しかも僕を呼んでいる。でも本人を確認するまではやっぱり強盗の可能性も疑って、そっと足音を立てずに倉庫を覗き込んだ。

「し、柴崎君!!」

 そこには陸上部のマットが乱雑に積み上がっていて、その隙間からニョキッと腕が一本出ていた。柴崎君の腕ってすぐにわかったのは、サッカー部員全員が付けているミサンガのせいだ。赤と青、それから白の入ったミサンガは柴崎君だけがしている。爽やかでヒーローのような色が良く似合っているっていつも思っていた。

「助けて……」

 マットでくぐもった声がもう一度僕の名前を呼ぶから、慌てて駆け寄って、その腕を引っ張った……触ってしまった。腕に。さっき机だけでもなんて撫でていたけれど、それよりももっとすごい事が起きた。腕を両手で引っ張ってしまった。
 息苦しかったのか、水面から飛び出たみたいに思いっ切り息を吐いて、そのマットの海からどうにかして這い出る。

「だ、大丈夫?」
「死ぬかと思った。マジで。慌ててボール片付けようと思ったら、マットが雪崩起こすんだもんな。陸上部、ちゃんと片付けろよ」
「……」
「あーあ、Tシャツ真っ黒、このまま洗濯出すとうるさいかな」

 ブツブツ呟きながら、服に付いてしまった埃を払っている柴崎君を眺めている。こんなに接近して、こんなに長い時間一緒にいたのは初めてで静かで奇妙な校庭くらい、この空間が奇妙に思える。

「小野田?」
「!! ご、ごごごめんなさい」

 見過ぎてしまった。いつもは視界の端にしか映せない姿が、目の前にあるからよくわからなくて、つい何かテレビでも見ているような気分で見入ってしまった。

「あ、あれ、テレビみたいに、そのっ私服とかだから、あ!」

 私服が見れて嬉しいなんて言い掛けて、慌てて口を噤んだ。これじゃ怪しい奴にしかならない。マットの雪崩から助けたけれど、命の恩人でもなかったらただの変態が慌てているって怪しまれて、怪訝な顔をされてしまう。

「それより小野田はこんな時間に学校に何しに? まさかひとり肝試し?」

 僕って地味だけど、そんな寂しい遊びをひとりで修業式後にすると思われているんだろうか。なんだか落ち込みそうになる。

「あの、夏休みのプリント忘れて……」
「なんだ、そっか」
「……」

 あれ? って、ふと疑問が沸いた。柴崎君私服だ。僕は学校に来るからって一旦制服を脱いだのにまた着て来た。でも私服……ってことは学校に用があったんじゃないんだろうか。それに部活も今日はどこも休みなのに。

「し、しし柴崎君は?」
「え?!」
「ここで何してたの?」

 空はさっきよりも暗くなって、校庭を照らす照明も今日は点灯していないから、こんな倉庫の中では余計に暗くなる。早く出たほうがいいんだろうけど、こんなに近くで、しかも話したこともないから、あと少しあと少しって、ここを出るタイミングを延ばしている。

「……サッカーしようと思って」

 ひとりで? それにサッカーするにしてもビーチサンダルじゃ本格的にサッカーをやるには不向きだろうに。柴崎君の答えにまたひとつ疑問が湧いてきてしまう。よっぽど不思議そうな顔をしていたんだろうか、何かバツが悪そうに短めの髪をくしゃくしゃと掻き混ぜると「いいだろ」と呟いて、そっぽを向かれてしまった。
 僕にそんなことを突っ込まれる筋合いはないって思われた。慌てて謝ると、柴崎君も慌てて謝っている。

「? 柴崎君? 熱あんの?」
「は?」

 顔が赤い。こんな暗い中でもわかるくらいに顔が赤い。もしやマットに長時間埋もれていたのかもしれない。熱中症なんじゃないだろうかって、心配になって、急いで水道まで案内しようと手を取った。
 今日二回目の接触、なんて感慨深くなっている場合じゃない。倒れてしまったら大変だ。明日からの大事な大会が控えているサッカー部のエースをここで熱中症にさせるわけにはいかない。

「は、早く水!」
「は? 小野田」
「熱中症! 顔、真っ赤!」

 緊張している僕は片言の日本語でそれだけ伝えて、ドキドキしながら腕を引いた。

「!?」

 引いたはずの腕は柴崎君のもう片方の腕に捕らえられている。

「熱中症じゃない。これは……ただ」
「ただ?」
「……あんまじっと見んな」

 また怒られて慌てて、そっぽを向くと、大きな溜息が聞こえた。

「もういっか……言っても……小野田が……」
「僕?」
「制服で歩いてんの見て、んで後つけて、そしたら学校に入っていったから、そのまま……全然出てねーし、ボールが一個転がってて、顧問はそういうのうるさいから片付けとこうと」
「……」
「で、お前が出てくるのが見えてさ、慌ててボールを置こうと思ったら、マットが」
「な、なんで?」

 どうして僕の後を付けてくれたんだろう。どうして出てくるのを待っていてくれたんだろう。全部がわからないし、腕を掴まれてジンジンするし、でも見たらいけないらしいから、変な方向を見ながら後から後から湧いてくる疑問に少し混乱する。

「なんでってわかんない?」
「へ?」
「尾行してんだぜ? 今、俺って顔赤くね? それにこんな状況に心臓飛び出しそうなんだけど? それでもわかんねー?」

 少し考えてはみるけれど、やっぱりわからない。柴崎君は心臓が飛び出しそうなくらいで済んでいるのだからまだマシだ。僕なんてもうわけがわからなくて、心臓がどこかへ行ってしまった気さえする。

「んじゃさ、明日の花火大会ふたりっきりで行こうぜ。……これでわかるだろ」

 よっぽど僕は友達がいないと思われているんだろう。まさか花火見学の心配までしてもらえるなんて思っていなかった。そんな誰にでも優しい柴崎君がやっぱり好きだなぁなんて、実感していたら、捕まってしまっている腕が余計に熱く感じられる。

「あ、あの……大丈夫だよ、僕、そんなに花火に興味は」
「はぁ? まだわかんねー?」

 わからないって言われている事がわからない。困ってしまって、しかももう日が暮れた倉庫の中は真っ暗で掴まれている腕だけがやたらと際立って、神経が全て集中していく。

「ご、ごめんなさい」
「花火デート! 誘ってんの!」

 耳を疑う言葉にはっとした。顔を上げても真っ暗で柴崎君のシルエットしか見えない。

「もし、花火デート、オーケーなら、目閉じて」
「あ、あの」
「何?」
「目、閉じてるかどうかわかるの?」
「……」

 僕には真っ暗で柴崎君の様子はそのシルエットと声でしか探れない。でも僕の様子はわかるのだろうか。それにデートって、それって。

「わかるよ」
「そうなの?」
「小野田が俺を好きって事はわかる」
「ええっ?!」

 なぜか僕の気持ちがバレている。どうしてバレたのか、いつバレてしまったのか、慌てて弁解しようとしたけれど、暗闇の中で柴崎君の声が静かに響いた。

「だって、俺がすっげー小野田が好きでずっと見てたから。んで、今日だって後付けてストーカーみたいな事するくらいだから」
「……」
「だから目、閉じて」

 くいっと腕を引かれて、急に目の前にふんわりと人の温度を感じた。きっとこれは柴崎君の温度で、ドキドキと心臓が跳ねているのは柴崎君の心臓だ。僕のは緊張のあまりどこかへ行ってしまったから。
 言われたとおりに目を閉じると、ふわっと何かが触れて、それがキスって気が付いたのは、暫く経ってからだった。

「これでわかったか?」
「わ、わかりました」
「んで? 花火デートは?」

 行かせていただきます。是非ともお願いしますって頭を下げようと思ったら、案外近くにあった柴崎君の身体に頭突きをしてしまった。

「他にわかんないことは?」
「あ、あの……」

 本当は「これって抱き締められてるの?」って訊きたかったけれど、耳のすぐそばで聞こえる心臓の音が本当に飛び出しそうだったから、僕は「ビーサンでリフティングって出来るの?」なんて今、この状況でどうでもいい事を訊いていた。



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