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「BL小説」
梅小話(SS)

僕にもわかる事(BL小説)

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 体育祭、この行事を満喫出来る人間と、満喫出来ない人間がいる。
 僕は満喫出来ないほうの人間だった。幼い頃から、まず自分の出る競技が少ないから時間を持て余す。出てもさして光る事のない団体競技の頭数要因だったり、個人種目に至っては花形のリレー選手に選ばれる事もない。こっそり競技に参加するくらい。もし万が一にも借り物競争、障害物レースなんかの外れくじを引いてしまったら、どうしたらいいのかわからず、なんとかして腹痛を起こせないものかと前日から悩んだりする。
 人気者の人なんかはそんなレースを思う存分楽しめる。歓声が沸き起こるし、友達なんかが冷やかしたりして、またそれに悪ふざけをしてしまえる心の余裕さえ持ち合わせている。
 そして僕の好きな柴崎君はそんな心の余裕を持ち合わせている人だ。
 サッカー部に入部したすごい人、もう入学時点で柴崎君は有名人だった。中学からすでにサッカーが上手いって有名だったらしい。僕は至って普通の男子高校生。
 去年、初めて柴崎君と話をして、ものすごくドキドキしたのを覚えている。僕は団体競技が終わったばかりで、自分のクラスで友達と一緒に、キャーキャーと歓声の上がる借り物競争を眺めていたんだ。

“ねぇ! オレンジのハチマキ!”

 僕のクラスはオレンジ、柴崎君は緑、そして借りなければいけない物が“オレンジのハチマキ”だった。
 いきなり目の前に現れたキラキラな柴崎君に眩暈がするかと思ったんだ。え? あの? はい? どの言葉を言う暇もなく手を引かれ、一緒にグラウンドを走り回るはめになった。すでに人気のあった柴崎君が男の僕の手を引いて走る。それだけでも充分目立っていたはずなのに、何故か手をブンブン振って誰に言っているのかわからない「おーい!」を連呼しながら、走り回るもんだから、恥ずかしくて、僕は繋いでいる手だけをじっと見るので精一杯だった。
 手が少し冷たくて、気持ちがよかったっけ。

 今年の僕は保健委員で、自分のクラスではなく、この救護テントの場所にいないといけない。交代交代だから後で自分のクラスには戻れるのだけれど、誰も怪我をしていないから、役割のあるはずの今ですら時間を持て余していた。

「おーのーだっ!」
「柴崎君! 怪我したの?」

 運動神経抜群の柴崎君が転ぶとは思えない。慌てて足元を見たけれど、とくにどこにも擦り傷ひとつない。それにさっき走っていたのをずっと見ていたけれど、転んでなんかいなかった。

「足、挫いた」
「えぇ?!」

 それは大変だ。そろそろ冬の大会の予選があるって、昨日一緒に帰っている時に話していたのに。急いで冷やさないといけないけれど、ここにあるのは運悪く、ズベーッと転んで擦り剥いた時用の応急処置に使うものしかない。救護テントの意味ないじゃんって慌てながら、隣で同じ当番の保健委員にここを任せて、芝崎君のところへと駆け寄った。

「大丈夫? 歩ける?」
「……歩けない」
「か、肩!」

 肩を貸すって事は柴崎君が寄り掛かるわけで、寄り掛かるって事は、こっち側の身体が全部密着するわけで……なんて邪な事を考えている場合じゃない。

「!」

 僕よりも背が高いから、肩に寄り掛かるというよりも、覆い被さるみたいになっていて、耳元がこそばゆい。なんだかゾクゾクするけれど、そんなことを考えているのは僕だけなんだ。柴崎君にしてみれば、大事な大会の直前に捻挫なんてって気を落としているかもしれない。

「保健室に!」
「うん♪」

 ひょこひょこと足を庇う柴崎君を抱き支えているつもりだけれど、端から見たら、木にしがみつくコアラのようかも。




「先生、いないみたいだね」
「そうだなぁ」
「と、とりあえず、そこ座って。冷蔵庫に氷が」
「はぁぁい」

 わざと明るい声で気を落とさないようにしているんだろう。氷を出して、ビニールの中へ水と一緒に入れて、あと、タオルと……ワタワタしながら習ったとおりに準備をして、振り返った。

「?」

 そこには普通に立っている柴崎君がいる。

「どっちの足だっけ?」
「え?」
「捻挫」

 それもわからないくらいに普通に立って、普通に歩いて、俺の目の前で止まった。

「そうだった……小野田だもんな」
「?」
「捻挫は嘘」
「えぇぇ?!」

 だってひょこひょこしてたのに、と足元を見たけれど、確かに腫れてもいないし、くるぶしまでの短い靴下のどこも汚れていない。

「さっき保健の先生がグラウンドにいたの見えたし、今だっ! って思って連れ出したの」
「な、なんで?」

 僕にだってわかる事がある。柴崎君が捻挫のフリをして、保健の先生がいなくなったこのタイミングで、ここに僕と一緒に来た理由くらい、僕にだってわかるんだ。わかるけど、だからこそ恥ずかしくて、真っ赤な顔を見られないよう下を向いた。
 いつだって赤くなってしまう。柴崎君と一緒に帰る時だって、話し掛けてくれる時だって、熱があるみたいに真っ赤で、普通の顔を見せられた試しがない。いつか林檎病ってあだ名を付けられてしまいそうって心配するほどだ。

「小野田」
「は、はい」

 名前を呼ばれて、顔を上げると、すでに、すぐそこに柴崎君がいる。外ではずっと騒がしい声援と運動会ならではのBGMが掛かっていた。

「……ン」

 でもこの保健室は静かで、チュッとキスの音が少しだけ響いてしまうくらいだ。
 いつもは唇と唇が触れるようなキス。数秒、でも僕にはすごく長いような、短いような不思議なその数秒はすぐに終わってしまう。

「っんふ、ン」

 今日もそうだと思ったのに、ちょっと違った。
 びっくりした。唇をペロって舐められて、飛び上がりそうになったけれど、それは柴崎君の腕で押さえてもらえたおかげでどうにか防げた。防げたけれど、ぐいっと引き寄せられて、肩を貸した時とは違う、真正面でお互いの身体が密着する。
 頭の中で、ギャー! とか アワー! とか叫びつつ、でも唇は柴崎君の唇で塞がれてしまっているから、息をするのさえままならない。
 舌が……舌を舐めて、る……のが気持ちイイ。
 自分の鼻を抜ける息の音が、今まで聞いたことがない音で、ちょっと戸惑うけれど、頬にそっと触れている柴崎君の指が優しいから、なんだか安心出来た。

「……ん」

 キス、終わっちゃった。っていうかこれって、いつものと全然違うけどキスだよね?

「小野田」
「?」

 お酒を飲んだ事はないけれど、酔っ払うとこんな感じなんだろうか。なんだか身体がトロンと蕩けたように力が入らない。

「キスよかった?」
「うん」
「マジで?」
「うん」

 じゃあ、もっとする? その言葉に「うん」って頷こうと思った時だった。借り物競走に出る柴崎君を呼ぶアナウンスが聞こえた。人気者の芝崎君はそれこそ運動会で出ずっぱりだったんだ。

「柴崎君! 行かないと!」
「え? キスは?」
「ほら、行かないと!」

 捻挫がって急に蹲ったけれど、もうわかってしまった。これが仮病だって。どこも怪我をしていないって知っている以上、ここでさぼっているわけにはいかない。
 ほらって急かしてどうにか引っ張りあげて立たせてみたけれど、全然そこからは動いてくれそうもなかった。

「柴崎君ってば!」
「えー?」
「もうっ」

 さっきみたいなキスはまだ僕には出来ないけれど、少し高い位置にある唇に唇を押し付ける。

「!」
「続きはまた後で」
「! マジで?」

 た……たぶん。でもあまりにキラキラな笑顔を向けるものだから、頷くより他はなかった。

「よしっ! じゃあ頑張る! つかさ、俺が何借りるのかわかったら、超でかい声で叫ぶから、急いで小野田は用意して」
「え?」
「去年はハチマキでマジ助かったけど。今年は何だろうな」

 助かったって……それじゃあまるで。

「小野田とドサクサ紛れに手繋げて、超はしゃいでたんだ」

 あの時、「おーい!」って誰に言っているのか、すごくはしゃいでいた柴崎君。
 わかってしまったって思ってもいいんだろうか。僕のことをその時から……なんて嘘みたいな事を。

「今年はご褒美付きだからなぁ♪」

 まだまだあんなキスは出来ないけれど、ちゃんとご褒美になるようなキスが出来るよう頑張らなくちゃと、ひとり大好きな人の後ろで意気込んでいた。ちょっと意味合いは違うけれど、体育祭で人生初、頑張ろうと思った瞬間だった。



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