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「BL小説」
梅小話(SS)

至って普通の(BL小説)

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“好きです。あの、それだけ言いたかったんです。ごめんなさい”

 普通の告白、それをされた俺は男で、したほうも男だった。その部分を除けば至って普通の可愛らしい告白。でも遊び人って自分でも自覚出来るくらいに、男女関係なくとっかえひっかえ相手を変える俺には、そんな至って普通の告白が驚くくらいに新鮮だった。

「あぁ~ショウだぁ」
「よう」

 男にしては細い腰、肩も儚げで、セックスの時に触れるとビクビクと跳ねる、食ったら美味かった……っていうふうにしか覚えていない。あと髪がサラサラしてて騎乗位だとそれが揺れて綺麗だなって思った、って言う事は覚えている。名前はたしか……マキだと思う。別に気が合ったからセックスをする、その程度の相手の名前を全部覚えてなんていられないだろ。

「僕の名前、覚えてる?」
「覚えてる覚えてる、マキ……だろ」
「すごぉぉい、よく覚えてたねぇ、こっちの具合だけでしか覚えてもらえてないかと思った」
「えー? 俺ってそんなにヤリチンじゃないけど」
「嘘付き」

 そんな明け透けな会話がされているのは何もここだけじゃない。あっちの席ではさっきまで、別の男が座っていたはずなのに、なんだかカップルって雰囲気で耳に何やら囁いているし、向こうでは今すぐにでもキスして跨りそうな勢いだ。だからこのマキがこっちの具合って俺に囁いて、その細い腰を摺り寄せるのも別に至って普通の事。
 ヤリたい時に、良さそうな相手を見つけてセックスして、はいお仕舞い。また会えて、その時もそんな気分になれたら、またしようね、そんな程度のもんだ。
 男女どっちでもいけるけど、男相手のほうが後腐れがない。お互い同じ性別って事で、気持ちイイポイントは知ってるし、単純にヤリたいだけなら男のほうがいい。女は色々面倒くさいから、コンパや向こうから寄ってきた場合だけにしている。わざわざ追い掛けるのも面倒臭い。

「またここに来れば会えるのかなぁって思ってたんだよねぇ」
「へぇ……何で?」

 語尾を伸ばす感じが少し鼻につくな。

「だってセックス上手だったんだもん。すっごい美味しかった、ショウのここ」

 スルスルッと指が太腿を撫でて、そのまま股間をその掌で包み込まれる。やる気満々の淫乱は嫌いじゃない。遊ぶにはちょうどいいし、ヌきたいけど疲れてる時は跨って勝手にアンアン言って腰を振ってくれるから。

「どう?」

 誘っているって一目瞭然な瞳。濡れて、今、ここでセックスしているみたいな色をして、キスを欲しそうに唇を濡らしている。

「ショウ?」

“翔太君、あのちょっと話があるんですが、いいですか?”

 語尾をはっきり切る、綺麗な日本語だった。そのくせ少しどもるのは緊張していたからだろう。頬が桜色で、今、目の前で股間を弄っているネコ専のこいつとは全然違う、もっと綺麗な何かで濡れた瞳をしていた。そんなまるで小動物みたいな、純粋で無垢な瞳が恐る恐る俺を見上げてた。

“あの、僕、|松田郁《まつだいく》って言います。法学部の二年生です。突然、呼び止めてしまってごめんなさい”

 自分の自己紹介をして、そして丁寧に俺に謝って。何かと思った。どう見ても系統の違う人種。真面目で真っ直ぐスクスク育った感じ。その反対に俺はフラフラしながら適当に学校に来て、適当に遊んで、適当にセックスしてるようなダメな大学生。
 そんな別世界の松田君が俺の事が好きだと言った。
 男が男に告白なんて有り得ない。気持ち悪いとかじゃなく、俺だったからいいようなもので、相手がノンケだったらどうするつもりだったんだろうか。普通に考えてみて、大体の反応は「おいおい、マジか?」「キモい」「嘘だろ」で、最終的には噂が流され、松田君はホモですってなる。
 そんな事も考えずに真っ直ぐ告白されて、正直戸惑った。戸惑いすぎて、頭からいまだに出て行ってくれない。

「ねぇ、行こうよ~」
「……」

 マキは締り具合がけっこう好みだった。喘ぎ声もエロくてその気にさせるのが上手い。あ、フェラも最高だったな。

「ショウ? ね?」

 キスは……。

“それだけ言いたかったんです。ごめんなさい”

 深く頭を下げて、そしてクルッと背中を向けて行ってしまうのを、身体が勝手に引きとめた。驚いて振り返る郁と同じくらいに俺も驚いて、どうして引き止められたのかと困惑している郁よりも、こんな男からの告白に心臓をバクつかせながら手を掴んでしまった俺のほうが困惑していた。

“あ、あの、翔太、君?”

 大学生にもなって同性から君付けで呼ばれるなんて思いもしなかった。

“好きってさ……”
“え?”

 潤んだ瞳に心臓がドクドク鳴り始める。

“あんた好きってさ、男を好きって意味わかって言ってる?”
“あ……あの”

 視線を泳がせて、薄く開いた唇はピンクよりも濃い赤で、まるで粘膜そのものだった。

“!”

 触れてみたらどんな感触だろうって思った。キスなんてもう何百回誰とやったかもわからない。覚えていない。数え切れないくらいにしたけど、その時の感触は全然違っていた。柔らかくて少しだけ濡れていたのが、舌を絡ませて唾液を飲み込むエロいキスよりも感じる。ゾクゾクしたものが腰を駆け抜けた。

“あ、あの、これって”

 驚いただけでなく、濡れた瞳は明らかに涙を溜め始めてしまう。

“まさか初めてじゃないよな”
“!”

 ハッと顔を上げて、涙を溜めた瞳はフルフルと横に振るたびに、その雫を零した。

“違います! ごめんなさい!”
“は?”
“僕、好きって伝えられればよかったんです。こんなキスしてもらえるなんて、あの、本当にごめんなさい”

 そして深くお辞儀をしてからそのまま顔を上げる事なくその場を走り去ってしまった。
 どう考えたってあの硬直した表情から、あれが初めてのキスだってわかる。好きって伝えるだけでいいって、それで満足? 気持ち良い事をひとつもしてないじゃん。あんなお子様ランチみたいなキスで、あんな涙溜めてさ。なんで謝ったのかもわからない。あんなキスで満足したとかも有り得ない。

「ねぇ~ショウってば! 気持ち良い事しようよ~」

 そうだろ、フツーは。気持ち良い事出来たらそれでいいじゃん。あんなキス……触れるだけのキス、それに俺は確実にゾクゾクした。あの赤い唇は確かに美味かった。
 アンアン喘ぐ男も女も勝てない、啼くような澄んだ声をしていた。
 走り去る背中は儚げで、だからつい手を伸ばしてしまった。力一杯抱き締めたら折れてしまうだろうって華奢な身体だった。

「キスして、もっとエロい事しようよ」
「……」

 どんな卑猥な格好で誘われた時よりもゾクゾクした。

「いいや、今日は止めてとく……」

 どんな締りの良いやらしい身体を抱くよりも……あの声にもう一度名前を呼ばれたいと思った。

「……ないだろ、それは」

 好き、なんて、至って普通の告白をされて、俺の至って普通の生活が何か少しだけざわついたんだ。
 そして頭の中があいつでいっぱいになって、慌てて追い出そうとしたのに、逆に唇にあのお子様ランチなキスが鮮明に蘇った。



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