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「BL小説」
梅小話(SS)

手をぎゅっと握ったら(BL小説)

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“何気なくボディタッチをされたら、それは好きのサインかもしれません”

 まず……このボディタッチにあれが入るかどうか、そこからして疑問だ。

「うーん」

 コンビニの窓際、雑誌をパラパラ捲りながら、そんな事を考えつつもレジを見る。この時間にあの子がいるわけがないだろ。俺が仕事帰りの時間にしかいないんだから。っていうか俺も朝一からコンビニで恋愛相談のページを読み耽っているほどの余裕なんてないだろ。仕事に行け。
 いるかなぁと思いつつ、店内を覗き込むように顔を出しても見えなくて、そのまま駅に向かえばいいのに、わざわざ店内に入ってまで探してしまい、そして立ち読みをしてしまった。
 ありがーしたー、「ありがとうございました」の原型をほぼ留めていない挨拶を背中で受けながら、外へ出ると一気に朝の冷えた風に晒される。

“最近、急に寒くなりましたよね。おでんいかがですか?”

 そう首を傾げながら、大きな瞳で真っ直ぐ俺を見て尋ねる。うん、と頷くとすごく嬉しそうに微笑まれて、つい夕飯用の材料は冷蔵庫にあったのに、大根、ちくわぶ、卵、さつまあげ、牛スジ、餅きんちゃく……がっつり夕飯分を買ってしまった。

“イベリコ豚肉まん、今さっき蒸かしたんです。ちょうどの時間かなって思って”

 ちょうどの時間って、俺の帰る時間って事? それじゃあ買わないわけにはいかないだろ、二つください。朝と夜の分……ってそこまで誰も訊いてないし、蒸かしたてだから買おうと思ったのに、朝の分はレンジでチンだから意味がないじゃん。とか心の中でひとりツッコミをしてみたり。
 キャバクラって言ったことないけど、あそこについつい行って、金を使っちゃうんだよなぁっていうのはこういう気持ちなんだろうか。
 ただその大きな瞳で首を傾げて、俺が頷くと嬉しそうに微笑む相手が、キャバ嬢ではなくて、ただのコンビニ店員で、ただの若い男の子っていうだけが違う。
 これがキャバ嬢なら俺も「アハハ、俺ってアホだなぁ」って呆れられるけど、それが若い男の子となると、なんだか一気にアブナイ世界に突っ走ってしまった感がある。仕事にも慣れて、さぁここからは結婚相手も探さないといけないだろうっていう三十手前のサラリーマンには突然過ぎる悩み事だった。
 おいおい、おいおいっ! って日増しに自分の中でのツッコミの声が大きくなるのに、何故か足は毎日このコンビニへ向かう。そして彼の笑顔見たさに、コクコク頷いてしまう。あれがキャバ嬢だったら、尻の毛まで毟り取られる……っていうかこの場合は俺が尻を……朝からアホな妄想しそうで本当に危険だけど。つまりはキャバ嬢だったら確実に良いカモだ。よかった、彼が勤めているのがコンビニで。単価がいつも数百円で済んで。

「うーん」

 でも彼が女だったら、尻の毛まで毟り取られる、それが問題? それとも相手が男って事が問題?
 なんてアホな事で悩んでいる場合じゃない。
 そうだった俺の悩みは、その彼が突然、お釣りを渡す時にした驚きの行動に関してだった。

“百五十円のお返しです”

 そう言われて何気なく出した手、その上にお釣りの小銭を置いて、そのまま両手で手をぎゅっと握られた。包み込むように両手で。
 暖かくて柔らかい手をしていた。俺は逆に外気で手が冷えていて、店内でホクホクに温まった、まるでイベリコ豚肉まんみたいに暖かい手に蕩けてしまいそうだった。

“……ありがとうございました”

 そう。彼が送ってくれる時の挨拶は「ありがーしたー」じゃなくて、ちゃんと「ありがとうございました」なんだ。そしてその日はそこに何か意味深は間があって、握られた手の熱よりも顔が火照るみたいに熱くなってしまった。
 そんな出来事があったのが一週間前。

「……」

 店内にいないなら、外で掃除? と思って振り返っても彼の姿はない。仕事帰りにいつもいたのに、そのせいで手ぶらで家に辿り着く事なんてなかったのに、その日を最後にいなくなってしまった。
 朝のこの時間帯にもいない。それなら昼間なんだろうか。でも彼が、乾(いぬい)君がどうしたのかを他の店員に訊くのはさすがにどうかと思うし。っていうか名札を見て名前を覚えてしまった三十手前のリーマンはちょっと怖いだろうし。
 でもさ、普通男の手をぎゅっと握るか? 可愛い女の子とかならまだわかるけど、普通はそれでも何なんだってなるだろうけど、それでもまだ男女だから有り得る。でも男同士でコンビニで……有り得ないだろ。

「すっ!」

 き……とかじゃなきゃさ。
 なんて事をひとりで考えて頬を赤くしてしまう俺はさぞかしキモいだろう。
 でもさ茶色の髪は緩やかなウエーブで、男の子って呼ぶほうが似合うくらいに中性的にさせている。でもしっかり男の声をしていて、ちゃんと喉仏だってある。その喉仏がまたなんか……エ……。

「っくないっ!」

 首をブンブン横に振って言葉を頭から追い払った。
 っていうか頭の中が乾君でいっぱいなんだけど、これはどうしたらいいんだろうか。

「……」

 向こうにしてみれば売り上げに貢献してくれる彼女もいなそうな、ただのサラリーマンなのかもしれない。
 からかい半分で手をぎゅっと握ってみたら、面白い反応をするかもしれないって思っただけ。それが妥当な見解だ。
 でも手を握った時、切なげだったのは何で?
 何であんなにいつも一言声を掛けてくれた?
 何で柔らかくドキドキしてしまうような笑顔を俺に向けた?

「!」

 ふと前を歩くギターを持った背中に目がいった。

「……」

 斜め後ろから覗く横顔。少し寒そうにマフラーに顔の半分を埋めてしまっているけれど、あれは……乾君だ。

「いっ!」

 咄嗟に声を掛けようと思って、でもそこで喉が詰まった。
 俺は声を掛けて何を言うつもりなんだろう。
 やぁ、コンビニのバイト最近入ってないの? それを訊いてどうするんだ? 普通にこれじゃストーカーだろう。朝まで探しに寄ってしまうなんて、男同士だから余計に気持ちが悪いに決まってる。
 向こうはただ商品を買ってもらいたかっただけなのに。
 でもさ、おでんはちょうどいい味の染み具合だったんだ。煮詰まりすぎていて、廃棄直前だったわけじゃない。イベリコ豚肉まんだって、べちょべちょしていなくて、ふっくらと柔らかくて温かくて、まるで乾君の手みたいだったんだ。
 全部が全部、俺が通り掛かりそうな時間に、まるで合わせたようにちょうどよかった。

“百五十円のお返しです”
“……ありがとうございました”

 ドキドキしたんだ。それは突然のようだけれど、毎日毎日彼が話しかけてくれたから、少しずつ伝わってきた温度みたいに、段々と俺の心を占領していった。

「いっ乾君……」

 聞こえないだろう。朝の通勤ラッシュの中、こんな小さな声じゃ彼には届かない、そう思ったのに。

「……」

 彼はふと顔を上げて、キョロキョロと辺りを何故か見回している。まるでそれは俺が呼んだのを聞いたみたいに、誰かを探している。自分の名前を呼んだのは誰だろうと探している。

「いっ乾君!」
「……」

 今度は少しだけ大きく名前を呼んで、彼はきっと耳が特別いいんだ。その声の方向、俺のほうをしっかり目で追っている。

「!」

 目が合ったらドキドキした。コンビニの制服じゃない彼は何故だかすごく嬉しそうに笑っているように見えて、俺は今、「寒いからコーヒーなんて一緒にいかがです?」なんて言われたら素直に頷いてしまう。

「……」

 からかい半分でバイト中に声を掛けたんだとして、もう半分は何ですか? って訊いてしまえる、そんな勇気が出てくるような柔らかくて温かい笑顔が俺を見つめていた。



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